呉茱萸湯と人参湯にはどちらも、人参の薬味が各三両ずつ入っています。呉茱萸と乾姜の薬味の違いが、病邪としての冷えの深さを示しています。
呉茱萸湯は、冷えが上へのぼって吐き気、頭痛となります。 人参湯は、冷えが下へさがって手足が冷え、下痢しやすくなります。 生姜甘草湯と呉茱萸湯と人参湯の薬味の中の人参の量は、皆同じであります。 生姜甘草湯と呉茱萸湯と人参湯の薬味を表にしてみました。 ○生姜甘草湯と呉茱萸湯と人参湯の薬味の相違 (新古方薬嚢の薬味の分量) 傷寒論・金匱要略より条文を引用してみますと 金匱要略「肺痿肺癰欬嗽上気病脈證治第七」の第17条より ●千金生姜甘草湯、肺痿、欬唾涎沫止まず、咽燥し渇するを治す。 傷寒論「辨陽明脈證併治第八」の第64条より ●穀を食して嘔せんと欲するは、陽明に属するなり、呉茱萸湯之れを主どる。 金匱要略「嘔吐噦下利病脈證治第十七」の第10条より ●嘔して胸満の者は呉茱萸湯之れを主どる。 金匱要略「嘔吐噦下利病脈證治第十七」の第11条より ●乾嘔して、涎沫を吐し頭痛する者は呉茱萸湯之れを主どる。 傷寒論「辨少陰病脈證併治第十一」の第29条より ●少陰病、吐利、手足厥冷し、煩燥、死せんと欲する者、呉茱萸湯之れを主どる。 傷寒論「辨厥陰病脈證併治第十二」の第54条より ●乾嘔、涎沫を吐して頭痛する者は、呉茱萸湯之れを主どる。 金匱要略「胸痺心痛短気病脈證治第九」の第5条より ●胸痺、心中痞、留氣結ぼれて胸にあり、胸満脇下より心を逆搶するは、枳實薤白桂枝湯之を主どる、人参湯も亦、之を主どる。 傷寒論「辨霍乱病脈證併治第十三」の第6条より ●霍亂、頭痛発熱、身疼痛、熱多く水を飲まんと欲する者は五苓散を主どる、寒多く水を用いざる者は 理中丸之を主どる。 傷寒論「辨陰陽易差後勞復病證併治第十四」の第5条より ●大病差えて後、喜んで唾はき久しく了了とせざる者は、胃上に寒あり、當に丸薬を以て之を温むべし、 理中丸に宜し。 生姜の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味辛温、胸満欬逆上氣を主どり中を温め血を止どめ汗を出だし風湿痺を逐ひ腸澼下痢を主どる生なる者尤も良し久服すれば息氣を主どり神明に通ずと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 生姜味辛温、氣を扶け外を實す、之れ生姜の発汗薬に多く用ひらるる所以なり。 人参の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘微寒、五臓を補ひ精神を安んじ魂魄を定め驚悸を止どめ邪気を除き目を明らかにし心を開き智を益すことを主どり、久しく服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 主治心下痞堅、痞鞭、支結なり旁ら不食嘔吐喜唾、心痛、腹痛、煩悸を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 乾きを潤し、しぶりを緩む。故に心下痞、痞堅、身痛、下痢、喜嘔、心痛、その他を治す。 甘草の氣味と効用について 神農本草経に曰く 甘草味甘平、五臓六腑寒熱邪気を主どり筋骨を堅め肌肉を長じ気力を倍にし金瘡の腫れや毒を解す久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 甘草主治急迫なり故に裏急急痛を治し旁ら厥冷煩躁衝逆等の諸般急迫の毒を治すると。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 甘草は味甘平、緩和を主として逆をめぐらす効あり、逆とは正に反する事なり、めぐるとは元に戻る事なり、故によく厥を復し熱を消し痛を和らげ煩を治す。 大棗の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘平、心腹邪気を主どり中を安んじ脾を養ひ十二経を助け胃氣を平にし九竅を通じ少氣少津液身中の不足大驚四肢重を補ひ百薬を和し久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 攣引強急を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 攣引とはひきつり引かるる事なり、強急とはこはばりつまるなり、則ち大棗に緩和の効あるものと見ゆ、叉大棗には血の循りを良くするのハタラキあり。 呉茱萸の氣味と効用について 神農本草経に曰く 呉茱萸味辛温、中を温め氣を下し痛を止どめ欬逆寒熱を主どり濕血痺を除き風邪を逐ひ腠理を開くと。 薬徴に曰く 呉茱萸は嘔して胸満するを主治する也と。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 呉茱萸味辛温胃中を温め其の働きを鼓舞す。故に停水を去り吐き気を治し下利を止どめ手足を温めまた頭痛を治す。 白朮の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味苦温、風寒湿痺死肌痙疽を主どり汗を止め熱を除き食を消す。煎と作して餌すれば久しく服して身を軽くし年を延べ飢えずと。 薬徴に曰く 利水を主どるなり、故によく小便自利不利を治し旁ら身煩疼痰飲、失精、眩冒、下痢、喜唾を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 水をさばきその滞りを除きよく小便を調ふ。故に小便不利、小便自利を治す。不利は出工合悪きを謂ふ。叉小便少なきをも言ふ。自利はよく出る者を言ふ。則ち出過ぎる者の事。小便の出が悪い筈なのに反って出の好い者の事も自利と謂ふ。小便が少なくて下痢する者、小便の出が好くて便秘する者、筋や骨の痛む者、めまひのする者、頭の重い者、胃がふくれて食進まず或いは吐く者、朮のゆくべき場合には必ず小便の出工合を確むべし。 乾姜の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味辛温、味辛温、胸満欬逆上気を主をどり中を温め血を止どめ汗を出だし風湿痺を逐ひ腸澼下痢を主どる。生者尤も良し、久服すれば息気をまもり神明に通ずと。 薬徴に曰く 結滞水毒を主治するなり、旁ら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛を治す。生の生姜と乾かした生姜とは元一物にして薬効大いに異なる、自然の妙瘍まことに窮究し難きもの多し、而して乾姜の場合は散辛化して歛辛となる、生姜は進むことを主どり乾姜は守ることを主どる、万物の変化まことに計り知るべからざる所あり、乾姜は深きを温むる効あり、故に厥を回し下痢を止め嘔を治す。
by shizennori
| 2007-11-15 17:04
| 13.呉茱萸湯と人参湯
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