桂枝と甘草の薬味の処方が「傷寒論」の「辨太陽病脈證併治中篇第34条」に出ています。
●発汗過多其人叉手自冒心心下悸欲得按者桂枝甘草湯主之 汗を発したること多きに過ぎ其の人手を叉み自ら心を冒えば心下悸し按を得んと欲する者は桂枝甘草湯之をつかさどる ◎桂枝と甘草の入った処方は、多かれ少なかれ表虚があります。発汗が多いと陽気が損なわれます。 更に汗が多いと津液が失われます。 つまり、熱量と水分が失なわれます。熱が不足しますと冷えるし水分が不足すると乾きます。 要するに、表虚の状態になっております。ここで表のもつれを調える桂枝が必要になってきます。 ここに桂枝と甘草の薬味の入った処方を表にしてみました。 ○桂枝・甘草の入った処方の薬味の相違(新古方薬嚢の薬味の分量) ![]() 傷寒論・金匱要略より条文を引用してみますと 傷寒論「太陽病中篇第37条」より ●傷寒若くは吐し若くは下して後、心下逆満し氣上って胸をつき、起きれば頭眩し脈沈緊、汗を発すれば則ち経を動じ身振振と揺をなす者は茯苓桂枝白朮甘草湯之をつかさどる 傷寒論「太陽病中篇第33条」より ●発汗後更に桂枝湯を行うべからず、汗出でて喘し大熱無き者は麻黄杏仁甘草石膏湯を与え之を主どるべし 傷寒論「太陽病中篇第35条」より ●発汗後その人臍下悸する者は奔豚をなさんと欲す、茯苓桂枝甘草大棗湯之をつかさどる 金匱要略の「痰飲欬嗽病脈證併治第十二」の第38条より ●青龍湯を下しおわり多唾口燥し寸脈沈尺脈微手足厥逆氣少腹より上って胸咽をつき手足痺その面翕然として酔状の如く、また下陰股にながるるによって、小便難く、時にまた冒するものには、茯苓桂枝五味甘草湯をあたえて、その氣衝を治せ 傷寒論「太陽病中篇第43条」より ●傷寒汗出でて渇する者は五苓散之を主どる、渇せざる者は茯苓甘草湯之を主どる 傷寒論「太陽病中篇第95条」より ●火逆、之を下し、焼鍼に因って、煩躁する者は、桂枝甘草龍骨牡蠣湯、之を主どる 傷寒論「太陽病下篇第48条」より ●風湿相搏ち骨節煩疼掣痛屈伸するを得ず、之れに近づけば則ち痛み劇しく、汗出で短気小便不利、悪風衣を去るを欲せず、或いは身微腫する者は、甘草附子湯、之を主どる 桂枝の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味辛温、上気欬逆、結気、喉痺、吐吸を主り、関節を利し、中を補い血を益す 薬徴に曰く 桂枝主治衝逆なり傍ら奔豚頭痛発熱悪風汗出身痛を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 桂枝は味辛温、汗を発し表を調う、叉衝逆を主どると謂わる、衝逆とは下から上へつきあぐる勢いを云う、動悸頭痛息切れ肩のはり等此れ衝逆より生ずる者あり、表の陽気虚する時はよく此衝逆を発す、桂枝よく表を救う、故に斯く称するものなるべし。 甘草の氣味と効用について 神農本草経に曰く 甘草味甘平、五臓六腑寒熱邪気を主どり筋骨を堅め肌肉を長じ気力を倍にし金瘡の腫れや毒を解す久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 甘草主治急迫なり故に裏急急痛を治し旁ら厥冷煩躁衝逆等の諸般急迫の毒を治すると。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 甘草は味甘平、緩和を主として逆をめぐらす効あり、逆とは正に反する事なり、めぐるとは元に戻る事なり、故によく厥を復し熱を消し痛を和らげ煩を治す。 茯苓の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘平、胸脇逆氣憂恚驚邪恐悸心下結痛、寒熱煩満欬逆口焦舌乾を主どり小便を利し久服すれば魂を安んず神を養ひ飢えず年を延ぶと。 薬徴に曰く 茯苓の主治は悸及び肉じゅん筋惕なり旁ら小便不利、頭眩、煩燥を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 水を収め乾きを潤しその不和を調ふ故に動悸を鎮め衝逆を緩下し水を利して眩悸等を治す。 白朮の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味苦温、風寒湿痺死肌痙疽を主どり汗を止め熱を除き食を消す。煎と作して餌すれば久しく服して身を軽くし年を延べ飢えずと。 薬徴に曰く 利水を主どるなり、故によく小便自利不利を治し旁ら身煩疼痰飲、失精、眩冒、下痢、喜唾を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 水をさばきその滞りを除きよく小便を調ふ。故に小便不利、小便自利を治す。不利は出工合悪きを謂ふ。叉小便少なきをも言ふ。自利はよく出る者を言ふ。則ち出過ぎる者の事。小便の出が悪い筈なのに反って出の好い者の事も自利と謂ふ。小便が少なくて下痢する者、小便の出が好くて便秘する者、筋や骨の痛む者、めまひのする者、頭の重い者、胃がふくれて食進まず或いは吐く者、朮のゆくべき場合には必ず小便の出工合を確むべし。 大棗の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘平、心腹邪気を主どり中を安んじ脾を養ひ十二経を助け胃氣を平にし九竅を通じ少氣少津液身中の不足大驚四肢重を補ひ百薬を和し久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 攣引強急を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 攣引とはひきつり引かるる事なり、強急とはこはばりつまるなり、則ち大棗に緩和の効あるものと見ゆ、叉大棗には血の循りを良くするのハタラキあり。 五味子の氣味と効用について 神農本草経に曰く 五味子味酸温、氣を益し欬逆上気、労傷羸痩を主どり不足を補ひ陰を強め男子の精を益すことを主どると。 薬徴に曰く 五味子咳而冒する者を治することを主どるなりと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 欬を治し小便を調へ冒を治す、冒は則ち鬱冒のことにて頭をすっぽりと被せ包まれたるが如き感じを云、延いて頭の重きにも宜し、頭のただぼーっとしたるにも宜し、耳のガンガンするにも宜し。。 生姜の氣味と効用について 神農本草経に曰く 生姜味辛温、胸満欬逆上氣を主どり中を温め血を止どめ汗を出だし風湿痺を逐ひ腸澼下痢を主どる生なる者尤も良し久服すれば息氣を主どり神明に通ずと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 生姜味辛温、氣をたすけ外を實す、之れ生姜の発汗薬に多く用ひらるる所以なり。 龍骨の氣味と効用について 薬徴に曰く 龍骨主治臍下動也旁ら煩驚失精を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 龍骨は内を補ひ縮まりを緩め血気を調へ和す、故にボクは本品に頭をやすめ氣を落ち付かせ疲労を治する能ありと言ふ。 牡蠣の氣味と効用について 神農本草経に曰く 牡蠣味鹹平、傷寒寒熱温瘧灑灑驚恚 怒氣を主どり拘を除き鼠瘻を緩め女子帯下赤白を主どる久服すれば骨節を強め邪気を殺し年を延ぶと。 薬徴に曰く 牡蠣主治胸腹之動なり、旁ら驚狂煩躁を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 牡蠣は味鹹平乾きを潤し血氣の行を調へ和す、故に胸脇下の痞へを柔らげ或は寒瘧を治し或は水氣を除き又は驚きを鎮むる等の能をなす。 附子の氣味と効用について 薬徴に曰く 逐水を主どるなり、故によく悪寒身体四肢及骨節疼痛或沈重或不仁或厥冷を治し旁ら腹痛失精下痢するを治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 附子味辛温、表を實し陽を益し津液を保つ故に悪寒し厥冷を復す。
by shizennori
| 2007-08-23 20:06
| 3.桂枝・甘草の薬味
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1.桂枝湯類の薬味 2.麻黄剤の類処方 3.桂枝・甘草の薬味 4.建中湯類の処方 5.黄連・黄芩の薬味 6.八味丸の加減方 7.桂枝附子湯の類似処方 8.厚朴・大黄剤の薬味 9.葛根,括樓根,人参の薬 10.四逆湯類の薬味 11.甘草乾姜湯の類処方 12.甘草の薬味の類処方 13.呉茱萸湯と人参湯 14.芍薬と枳實の薬味 15.真武湯と附子湯 16.梔子豉湯類の薬味 17.括蔞実・薤白剤の薬味 18.當歸四逆湯の加減方 19.柴胡剤の薬味の相違 20.乾薑と附子の薬味 21.麦門冬湯の類処方 22.麦門冬の薬味の処方 23.澤瀉の薬味の処方 24.當歸,芍薬,芎藭,地黄 25.地黄の薬味の処方 26.白虎湯類の処方 27.桃仁の薬味の処方 28.当帰散と白朮散の相違 29.五苓散と猪苓湯の薬味 30.桂枝湯の芍薬の加減 31.桂姜棗草黄辛附湯類 32.麻黄附子細辛湯類 33.嘔吐證の半夏の処方 思想・哲学 リンク
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