嘔吐の証のある半夏〔辛平〕の薬味の入った処方を考えてみました。
嘔吐がある処方は、大柴胡湯・黄連湯・小半夏湯・小半夏加茯苓湯・大半夏湯・乾姜人参半夏丸・猪苓散・附子粳米湯があります。 ここの表では、大柴胡湯・黄連湯・大半夏湯・猪苓散・附子粳米湯は除きます。 それと類処方の半夏厚朴湯と麦門冬湯の比較を表にして見ました。 ○嘔吐のある半夏の薬味の類処方の相違 (新古方薬嚢の薬味の分量) 〔新古方薬嚢〕より ●小半夏湯を用ふるの證候 〔故なく急卒に嘔吐を發し、止まざる者に宜し。この場合併せて熱を発する者は小柴胡湯の方を考ふべし。熱無く唯胸中苦しくして嘔し、冷汗など出づるものには本方のゆく所多し〕 ●小半夏加茯苓湯の證 〔にわかに嘔き氣を催して吐し、胃のあたりがつかえ詰りたる感じして、めまいしたり動悸したりする者、心下の気持が悪くなるとめまいしたり、動悸が生じたりすると言ふ所が大切の所なり。又は始に甚だ咽が渇きうんと水を呑んだ後で、嘔気を催し吐きの止まらなくなった者にも宜し〕 ●乾薑人参半夏丸を用ふるの證 〔妊婦のつはりにて嘔き氣止まざる者、物を食する度に嘔して納らざる者、本方はつはりには必ず試みて見るべきものなり〕 ●半夏厚朴湯の證 〔金匱要略にては婦人の咽中炙臠を治す。咽中炙臠とはのどの中に何かあぶりたる肉の塊り様の物がつかえたるが如き感じして呑めども下らず、吐けども出でずと言ふものの事なり。斯くの如き證ある者には先づ本方を試むるの要あるなり〕 ●麦門冬湯の證 〔咳が出て甚だ込み上げ止まざる者、咽喉痛む者、咽喉の通り悪しくいらいらとして咳出で始むる者。病後等にて他に別に原因なくして熱出で愈えざる者、但し此の場合食欲なき者は柴胡等の之く所多し。又咽喉いらいらとして咳出で止まざる者に半夏厚朴湯の證あり。但半夏厚朴の證の場合には咽喉のいらいら絶えず付き纏ふ者多し〕 傷寒論・金匱要略より条文を引用してみますと 傷寒論「辨太陽脉證併治下第七」の第38条より ●傷寒発熱汗出でて解せず、心中痞鞕嘔吐して下痢する者は、大柴胡湯之れを主る。 傷寒論「太陽病下篇第46条」より ●傷寒、胸中熱有り、胃中に邪気有り、腹中痛み嘔吐せんと欲する者は、黄連湯之れを主る。 金匱要略「嘔吐噦下利病脈證治第十七」の第14条より ●諸の嘔吐、穀下るを得ざる者は小半夏湯之れを主る。 金匱要略「痰飲欬嗽病脈證并治第十二」の第31条より ●卒に嘔吐し心下痞するは膈間に水有り、眩悸する者は小半夏加茯苓湯之れを主る。 金匱要略「嘔吐噦下利病脈證治第十七」の第18条より ●胃反嘔吐する者は大半夏湯之れを主る。 金匱要略「婦人妊娠病脈證并治第二十」の第6条より ●妊娠嘔吐止まず乾薑人参半夏丸之れを主る。 金匱要略「嘔吐噦下利病脈證治第十七」の第15条より ●嘔吐して病、隔上にあり、後に水を思う者は解す、急に之れを与ふ、水を思う者は 猪苓散之れを主る。 金匱要略「腹満寒疝宿食病脈證治第十」の第10条より ●腹中寒氣、雷鳴切痛、胸脇逆満、嘔吐、附子粳米湯之れを主る。 金匱要略「婦人雑病脈證并治第二十二」の第5条より ●婦人咽中炙臠あるが如きは半夏厚朴湯之れを主る。 金匱要略「肺痿肺癰欬嗽上氣病脈證治第七」の第11条より ●大逆上気、咽喉利せず逆を止め氣を下す者麦門冬湯之れを主る。 半夏の氣味と効用について 神農本草経に曰く 半夏味辛平、傷寒寒熱心下堅を主どり氣を下し咽喉腫痛頭眩胸脹欬逆を主どり腸鳴を主どり汗を止どむと。 薬徴に曰く 半夏主治痰飲嘔吐也旁ら心痛逆満、咽中痛、欬、悸、腹中雷鳴を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 半夏は氣を補ひ水を去る故によく嘔吐、腹中雷鳴、咳逆等を治す。叉咽痛を治す。 生姜の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味辛温、胸満欬逆上氣を主どり中を温め血を止どめ汗を出だし風湿痺を逐ひ腸澼下痢を主どる生なる者尤も良し久服すれば息氣を主どり神明に通ずと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 生姜味辛温、氣を扶け外を實す、之れ生姜の発汗薬に多く用ひらるる所以なり。 茯苓の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘平、胸脇逆氣憂恚驚邪恐悸心下結痛、寒熱煩満欬逆口焦舌乾を主どり小便を利し久服すれば魂を安んず神を養ひ飢えず年を延ぶと。 薬徴に曰く 茯苓の主治は悸及び肉じゅん筋惕なり旁ら小便不利、頭眩、煩燥を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 水を収め乾きを潤しその不和を調ふ故に動悸を鎮め衝逆を緩下し水を利して眩悸等を治す。 乾姜の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味辛温,胸満欬逆上気を主をどり中を温め血を止どめ汗を出だし風湿痺を逐ひ腸澼下痢を主どる。生者尤も良し、久服すれば息気をまもり神明に通ずと。 薬徴に曰く 結滞水毒を主治するなり、旁ら嘔吐、咳、下痢、厥冷、煩躁、腹痛、胸痛、腰痛を治す。生の生姜と乾かした生姜とは元一物にして薬効大いに異なる、自然の妙瘍まことに窮究し難きもの多し、而して乾姜の場合は散辛化して歛辛となる、生姜は進むことを主どり乾姜は守ることを主どる、万物の変化まことに計り知るべからざる所あり、乾姜は深きを温むる効あり、故に厥を回し下痢を止め嘔を治す。 人参の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘微寒、五臓を補ひ精神を安んじ魂魄を定め驚悸を止どめ邪気を除き目を明らかにし心を開き智を益すことを主どり久しく服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 主治心下痞堅、痞鞭、支結なり旁ら不食嘔吐喜唾、心痛、腹痛、煩悸を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 乾きを潤し、しぶりを緩む。故に心下痞、痞堅、身痛、下痢、喜嘔、心痛、その他を治す。 厚朴の氣味と効用について 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 味苦温、腹を温め腹満を除く。叉胸満、咳、喘、上氣等を治し、或は咽喉の塞へを治す。併し其の根元は腹満にあり。 紫蘇葉の氣味と効用について 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 紫蘇味辛温、所謂氣剤として用ひらる。鬱氣發散するの効あり。半夏厚朴湯に入る。其の他蟹の毒を解く特性あり。 麦門冬の氣味と効用について 神農本草経に曰く 麦門冬味甘平、心腹結気傷中傷飽胃絡脈絶羸痩短氣を主どる久服すれば身を軽くし老いず飢ゑずと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 麦門冬味甘平、咳を鎮め咽喉の通りを好くし、熱を去る。特に虚弱の者の咳込み、微熱等を除く効あり。 甘草の氣味と効用について 神農本草経に曰く 甘草味甘平、五臓六腑寒熱邪気を主どり筋骨を堅め肌肉を長じ気力を倍にし金瘡の腫れや毒を解す久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 甘草主治急迫なり故に裏急急痛を治し旁ら厥冷煩躁衝逆等の諸般急迫の毒を治すると。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 甘草は味甘平、緩和を主として逆をめぐらす効あり、逆とは正に反する事なり、めぐるとは元に戻る事なり、故によく厥を復し熱を消し痛を和らげ煩を治す。 粳米の氣味と効用について 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 粳米味甘平燥きを潤し急を緩め力を強むるの効あり。 大棗の氣味と効用について 神農本草経に曰く 味甘平、心腹邪気を主どり中を安んじ脾を養ひ十二経を助け胃氣を平にし九竅を通じ少氣少津液身中の不足大驚四肢重を補ひ百薬を和し久服すれば身を軽くし年を延ぶと。 薬徴に曰く 攣引強急を治すと。 新古方薬嚢(荒木朴庵)ボク曰く 攣引とはひきつり引かるる事なり、強急とはこはばりつまるなり、則ち大棗に緩和の効あるものと見ゆ、叉大棗には血の循りを良くするのハタラキあり。 #
by shizennori
| 2009-05-04 16:07
| 33.嘔吐證の半夏の処方
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